十種神宝 学校の基礎・基本

公立の義務教育の学校に永きにわたりお勤めだった稗田先生の、若い先生方への昔語りです。学習指導要領や、それに伴って変わってきた先生たちの意識や授業のことなど、教育現場に起こってきた今や昔のことどもを書き記していきます。

 義務教育の現場に長くお勤めだった稗田先生からお聞きしたことどもを、拙いながらもまとめてみました。
 不易流行という言葉があります。この、教育の"流行"の中から、自分だけの"不易"を見つけていただければ、これに過ぎる慶びはありません。
                                   十種神宝 主人 太安万侶

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 若いみなさんが高校・大学へ進学した当時、

 「確かな学力」とは「生きる力」を知的側面からとらえたもので、

 「知識や技能はもちろんのこと、これに加えて、学ぶ意欲や自分で課題を見付け、自ら学び、主体的に判断し、行動し、よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの」

 とされていました。

 ちなみに「生きる力」は「確かな学力」の他に「豊かな人間性」「健康・体力」があります。
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 「確かな学力」で知識や技能の定着を目指すのはよいのですが、
  • どうやって課題を生徒に発見させるのか。
  • 生徒が「やれ」と言われたからやるのではなく、自分から学び続けるためにはどんな指導が有効なのか。
  • どんな資質や能力をどのように育てればよいのか
等々、先生たちの悩みはつきませんでした。

 しかし、そんな中でも世の中はどんどん変わり続けました。

 同時多発テロやリーマンショック後の世界同時不況により
 「失われた十年」は「失われた二十年」になり、
 その間格差社会が進み、ブラック企業がはびこったことは、
 みなさんもご存じの通りです。

 この「就職氷河期」の中で就職時期を迎えたみなさんの先輩たちが、
 今も、ひきこもりニートになっていることが社会問題になっています。

 少子高齢化年金問題が最近クローズアップされていますが、
 これは年号が昭和が平成に変わった30年以上前からわかっていたことです。
 (先送りにし続けたツケをこれから払わされるだけのことです……ただそれだけのことですよ。泣)

 今、銀行の支店が次々に閉鎖されています。
 保険会社などは数千人単位でリストラを行っていることもご存じの通りです。
 また、今年になって「入国管理法」が改正され、
 外国人労働者の本格的な受け入れが始まりました。
 
 銀行の閉鎖や保険会社のリストラは、なぜ起こったのでしょう。

 これは第4次産業革命*1)の結果を見越してのことです。

 第4次産業革命の原動力は、ネットワークAIです。
 その結果、事務系の仕事はすでになくなりつつあるのです。
 そして事務系でない現場方でも、
 単純な仕事は人件費の安い外国人労働者に、ということでしょうか。
 (意見には個人差があります。)

 これが、指導要領で言う「世の中のグローバル化や急速な情報化、技術革新」の中身です。
 今後、どのように子どもたちが生きていく社会が変化していくのか、誰にも予測ができません。

 しかし子どもたちは、否応なく訪れる変化に対応し、
 確実に苛烈になっていく国際社会の中で
 よりよく生きていかなくてはいけないのです。

 そのためにも、単なる知識だけではない、
 「確かな学力」は、より幸福を追求するために
 なくてはならない力なのだ、と指導要領は考えているようです。

  *1) 第4次産業革命
 18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化を第3次産業革命と言います。それに続く産業革命です。
 第4次産業革命は、二つの技術革新が原動力となっています。
 一つ目は“IoT”と“ビッグデータ”です。“IoT(物のインターネット Internet of Things)”とは、様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組みや、それによるデジタル社会(クロステック)の実現を指すしくみです。具体的には、工場の機械の稼働状況から、交通、気象、個人の健康状況まで様々な情報がデータ化され、それらがネットワークでつながり、これを解析・利用することで、新しい付加価値が生みだされるしくみです。
 二つ目はAI(人工知能)です。人間がコンピューターに対してあらかじめ分析上注目すべき要素を全て与えなくとも、コンピューター自らが学習し、一定の判断を行うことを可能とする技術です。将棋や囲碁などでは、ほとんど名人級の思考力を備えるようになりましたね。このAIに従来のロボット技術が加わったとき、更に複雑な作業が可能となります。また3Dプリンターの発展により、省スペースで複雑な工作物の製造も可能となります。
 この“IoT” “ビックデータ”と“AI”が結びついたとき、人間に残された仕事は限られたものになります。“AI”にはできない、人間にしかできない仕事をする力を伸ばそうというのが「生きる力」なのだと思います。

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みなさんが幼稚園や保育園に上がる前、「確かな学力」*1)が言われ始めた頃、
バブルは完全に崩壊し、阪神淡路大震災やオウム真理教によるテロが起こり、リーマンショックでデフレが進んでいました。

そんな社会不安の中、みなさんが小学校に上がる頃に、学校は完全五日制となり、80年代とは違う学校の荒れ……学級崩壊が進み、大卒の就職率が過去最低となりました。
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失われた10年」の始まりです。

当時の先生たちは「基礎的・基本的な内容の確実な定着」と「体験的・問題解決的な学習の充実」という、 それまで相反すると考えられてきた授業をやるように指導されていました。

いくら「指導内容の厳選」で、教える内容が3割減らされたといっても、
指導時数も減らされた上で、「きめ細かな指導」も求められたのです。

この無茶な要求に応えるべく、みなさんの担任の先生たちは毎日・毎時間の授業をより効果的・効率的に進めるようにがんぱりました。

学校にPDCAサイクル*2)が導入され、グランドデザインが作られ*3)、評価にポートフォリオ*4)が奨励されたのも、ちょうどこの頃です。

これは今も続いていますね。
(しかし、その成果を十分にあげることができなかった、というのが私の率直な感想です。……意見には個人差があります。)

多くの先生たちは頑張っていたのですが、みなさんが小学校高学年になる頃に、
「満足に授業ができない先生」「子どもと人間関係が築けない先生」など、いわゆる「不適格教員」(指導力不足教員)に対するパッシングが起こります。

そしてみなさんが中学校を卒業する頃、
このゆとりでも詰め込みでもない「脱ゆとり路線」は、正式に指導要領に取り入れられました。

みなさんが中学校を卒業し、高校生・大学生になった頃も、みなさんの担任の先生達は、この「確かな学力」をつけるべく、更に指導を工夫し続けていたのです。
  
  *1) 確かな学力
 「確かな学力」とは当時「知識や技能はもちろんのこと、これに加えて、学ぶ意欲や自分で課題を見付け、自ら学び、主体的に判断し、行動し、よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの」と説明されました。「確かな学力」の概念は、2008年(平成20年)から2009年(平成21年)に告示の「学習指導要領」にも盛り込まれています。

  *2) PDCAサイクル
 Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返すことによって、生産管理や品質管理などの管理業務を継続的に改善していく手法のことです。学校経営や学級経営、教科経営に生かすようにと言われています。
 
  *3) グランドデザイン
 学校の教育理念や果たすべき役割を描いた経営全体構想を図示したものです。PDCAサイクルにせよグランドデザインにせよ「経営」が強く意識されていることがわかります。

  *4) ポートフォリオ評価
 ポートフォリオとは、書類入れやファイルを意味する言葉です。総合的な学習の評価方法として注目されました。教育現場では「学習活動において児童生徒が作成した作文、レポート、作品、テスト、活動の様子が分かる写真やVTRなどをファイルに入れて保存する方法」と定義されています。(多くの教室で使っている、教科毎にワークシート等を綴じておくファイルはここから始まりました。)
 ポートフォリオ評価は、単なる記録ではなく評価なので、残す意味があるものを選んで子ども自身の目の前でファイルすることを通して、①子どもが達成したことが何であるかを子ども自身に明確に伝え、②どうしてそれが高く評価されることなのかをわからせ、③子どもの達成感や自尊心、あるいは自己効力感を高め、そして④次の課題が何であるかを示して自分の学習活動をコントロールするためのメタ認知を育てることを意図するものなのですが……。(そういうふうに今でも使っている人、どのくらいいるのでしょう。……意見には個人差があります。)


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なぜ今、学校現場で「学び」が求められているのでしょう。

これは、学習指導要領の改訂の歴史と改訂に至る時代背景を考えるとよくわかります。

 ――――――――――

今は昔……と言っても、20代の若いみなさんが生まれる、少し前のことです。

世の中はバブル景気に沸いていました。
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みなさんには信じられないでしょうが、世の中はイケイケで、就職は売り手市場、建設業や金融業に就職希望が殺到しました。

学校では少年非行や校内暴力が流行り、教員のなり手が減少したのもこの頃です。

この頃の某テレビ番組に登場した一人のツッパリ系不良女子中学生が、先日国会で「愚か者の所業」「恥知らず」と発言していました。立派になったものです。
 
この「学校の荒れ」は「詰め込み主義」に原因があったのではないか、という反省から「新しい学力観」という言葉が使われ始めました。

そしてこの「新しい学力観」が、「生きる力」という形になりました。(1996中教審「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」)
 
ちょうどみなさんが生まれた頃でしょうか。この大きな路線転換は、「ゆとり路線」と言われました。
 
「みんな違って みんないい」という金子みすゞの詩や、SMAPの「世界に一つだけの花」が流行ったのも、ちょうどこの頃です。

ところがこの「ゆとり路線」は、子どもの自主性を尊重しすぎて指導ができていないのではないか、 学力低下が起きているのではないか、という批判がマスコミを中心にして起こりました。

これにダメ押しをしたのが2000年のPISA問題*1)です。「分数がわからない大学生」が問題になりました。

そしてみなさんが幼稚園や保育園に通い始めた頃、「確かな学力」が提案*2)されました。

確かな学力」は、詰め込み時代の「勤勉主義+学問中心主義」と、古くて新しい「経験主義+児童中心主義」の折衷案でした。

「ゆとり路線」で授業時間が減らされたまま、「確かな学力」をつけるために一層「教育内容の厳選」が行われ、学校行事の見直しが行われました。

同時に「体験的・問題解決的な学習などのきめ細かな教育活動を展開」するように、みなさんの小学校・中学校の担任の先生達は指導主事から何度も何度も指導されました。

*1) PISA問題
 OECD(経済協力開発機構)加盟国を中心に3年ごとに実施される15歳児の学習到達度調査です。主に読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーなどを測定しています。日本の成績は平成15年(2003)、平成18年(2006)と続落し、ゆとり教育の問題点が指摘されました。

*2)「確かな学力」が提案
 1998年(平成10年)に告示された学習指導要領は「生きる力をはぐくむこと」を基本理念としました。この「生きる力」の中には「基礎的・基本的な内容の確実な定着」が含まれていました。
 そして「基礎的・基本的な内容の確実な定着」を徹底するために、指導内容を3割程度削減しました。例えば「円周率は3でよい」とし議論を呼びました。(しかしその渦中、東大や阪大では入試に「円周率は3.05より大きいことを示せ」等の円周率問題を出題しました。学習指導要領は知識ではなく思考力を求めていたことの象徴的な例だと思いますよ。)
 指導内容を3割削減した結果、児童・生徒にとって十分な教育を行いうる状況でなくなったと更にマスコミを中心に学力低下論争が更に激化しました。
 これを受け文部科学省は「『生きる力』という基本理念をより拡充する」という名目で「確かな学力」を児童・生徒に身につけるよう、学習指導要領の施行の翌2001年に、緊急アピール「学びのすすめ」が出されました。


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学び」って何でしょう。

「学び」は、もともと「学ぶ」という動詞から生まれた言葉です。
「学ぶ」の語源にはいくつかの説がありますが、「学ぶ」は動詞ですから動作や状態を表す語に間違いありません。
つまり「学ぶ」というのは結果ではなく、行動を指す言葉で、それが名詞化した「学び」も、一定の動作を表します。

ですから授業の中で得た知識に「学び」はありません。
知識を得るに至るまでのアタマの中の動きこそが「学び」なのです。

得られた結果ではなく、結果を出すまでの行動が問題なのです。

では、日々の授業でどのようにしたら、50分間一人残さず「学び」という行動をとらせることができるのでしょうか。
  • 教師がカリスマ性を身につける。
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信仰される先生になる。吉田松陰みたいな先生でしょうか。
  • 考えない者には恐怖を与える。
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©原哲夫・武論尊/集英社
戦時中の軍事教練や『北斗の拳』のラオウ=拳王がまさにこれです。
  • 対価を要求する。
お金を払う以上、何かを得ようとがんばるのが人間です。

他にも
  • 競争させる
将来の見通しが立たない今、競争の先にあるものって何?と考えるとむなしいだけです。
良い成績をとって良い会社につとめても、この時代、定年まで安定しているところなんかありません。
  • 褒美を与える
サーカスの動物のようにうまくできたら「よしよし」と褒めて角砂糖でもあげるわけにはいきません。
角砂糖の代わりに評定値とか高校の推薦とか……それ、露骨にやっちゃだめでしょう

等々、たくさんの方法があると思います。
しかし、私たちは決してやってはいけない方法もあると思います。
ちなみに、上の方法はすべて「無理」か「アウト」だと思います。

……少なくとも公然とやってはいけません。

では、どうやったらよいのでしょう。
その方法は、大昔から、それこそ星の数ほどの方法が考えられてきました。

例えば、
  • 学習問題に対し課題を「スモールステップ」にして提示していくとか、
  • 問題を解決するために必要な「既習事項」を授業の導入で確認するとか、
  • 一人一人の考えが定まってきたら「他人の意見」に触れさせるとか、
  • 「4人グループ」にするとか。
いわゆる研究授業でやっていることは、ほぼ「学び」を成立させるための手段の研究なのです。

「学び」を「生きる力」の中で考えた場合、
これからは「生徒自らが考える」授業に変えていかなくてはいけません。

理科や社会などは最も強く「学ぶ」授業が求められています。
国語や数学も同じです。
いろいろある解決の方略を考える過程が授業となるのだと思います。
英語は体育や音楽と同じくトレーニングの要素が大きいとは思いますが、「生きた言語活動」がそれにあたるのではないでしょうか。

これからの時代、
「生徒に知識を確実に身につけさせること」ではなく、「生徒に考える力を確実につけること」が授業の大切な条件になります。

メタ認知等の世界に踏み込んだ指導です。

たいへんな時代になったものですね。


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昭和の仮面ライダーのお話です。
  • 「仮面ライダーを倒せ!」「世界を征服するのだ!」
…毎回提出される無茶で曖昧な課題に対し配下の怪人たちは、課題解決の方法を一生懸命、企画立案し、実行します。

この怪人たちの姿は「学び」と言ってもいいのでしょうか。
また、ライダーを倒す作戦を考え実行できたら、「質の高い学び」ができたと考えてもいいのでしょうか。

その前に、
「良いも 悪いも リモコン次第」と歌われる、命令に従うことしかできないロボット“鉄人28号”の「学び」について考えてみましょう。
tetsujin28©光プロ/原作:横山光輝
 鉄人28号は、たった3つのダイヤルと2本のレバー(?)しかない操縦機と、「がんばれ!鉄人!!」という(主に叱咤激励の)音声入力によって、認識した敵の動作を予測し、敵に勝利するための複雑な自律行動をしています。
しかも、当時としては画期的な「学習機能」も持っています。
AIが搭載されているのですね。

コントローラーひとつで自由自在に動くとは言っても、しょせん人間が具体的に指示したことしかできない『ドラクエ』や、壁にぶつかってから動作を考えるおそうじロボットなどより、ずっといろいろ考えて動いているのです。

ですから、「学び」のランキングをつけると
  • ドラクエ<鉄人28号
となります。

ショッカーの怪人は、どうでしょう。

例えば、首領から
  • ショッカーの命令に従う人間を育成するにはどうしたらよいか
という学習問題を与えられたとします。

この問いに対し
  • 幼稚園バスを襲撃し幼児を誘拐し洗脳すればよいのではないか
という学習課題をもち、課題解決に向けて具体的に計画を立案し、積極的に行動を開始しました。

もしこれがうまくいけば、自ら課題を持ち、その解決に向けて積極的に考え、行動し、成功したのですから、「質の高い学び」といえそうです。

たいてい自分のミスと仮面ライダーの活躍
……というより財団Bの陰謀により失敗するのですが……。


「学び」を「考え行動する姿」ととらえた場合、
鉄人28号は、相手の行動を予測し自律的に行動したに過ぎませんが、ショッカーの怪人は、鉄人よりはるかに高い自律的な「学び」をしたと言えます。
  • ドラクエ<鉄人28号<ショッカー怪人
なのです。

そもそもショッカーには、生体改造を行うほどの高い「確かな学力」があり、
下っ端戦闘員でも一般人の3倍以上、改造人間に至ってはオリンピック選手も素足で逃げ出すほどの「健康・体力」があります。
まさに「生きる力」の権化なのです。

「生きる力」の3つの要素の中の「豊かな心」が欠けているだけで……。

ですから、私たちは単に「学び」ができるだけの優秀な人材を育成してはいけません。


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