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「字のない葉書」の指導事項は、次の三つです。
  • ア 抽象的な概念を表す語句や心情を表す語句などに注意して読むこと。
  • イ 文章全体と部分との関係、例示や描写の効果、登場人物の言動の意味などを考え、内容の理解に役立てること。
  • ウ 文章の構成や展開、表現の仕方について、根拠を明確にして自分の考えをまとめること。
 これを3時間で取り扱うようになっています。
 内容的にじっくり取り扱いたいという気持ちもありますが、文化祭に提出する書写作品を仕上げたり文法学習の進度を考えたりすると、なかなかそうもいきません。

 「字のない葉書」の指導のポイントは、父親の言動の意味を考え、主題=「私」の父親に対する気持ちを考えるところにあります。

 3時間という展開を考えると、次のようになります。
  • 第1時=通読し、単元の課題を持ち、前半部に描かれた父親像を読解する。
  • 第2時=後半部に描かれた父親の心情を読解する。
  • 第3時=父親に対する「私」の気持ちを読解する。
 第1時はとてもつめこんだ内容となりますから、ひょっとしたら4時間扱いになってしまうかもしれません。

 最終的に読解したい問題は、
  • 「私」は現在、父親に対してどんな気持ちを持っているのだろうか
です。
 しかしこれが第1時に学習問題として生徒から出てくることはまずありません。

 生徒が直接興味をもつのは、
  • どんな父親なのだろうか
という思いです。

 そこで、「いつ」「どこ」「だれ」の「だれ」を考えていこう、という流れで単元を通し、
 第3時に「こういう父親を『私』は今どう思っているのだろうか」という問題を据えるのが自然だと思います。

 この問題に対する答えは、二つのエピソードの最後の段落にそれぞれ書かれています。
 特にこの作品の主題が説明されているのは前半のエピソードです。

  •  この手紙もなつかしいが、最も心に残るものをといわれれば、父が宛名を書き、妹が「文面」を書いた、あの葉書ということになろう。

 「この手紙」とは、直前の「優しい父の姿を見せたのは、この手紙の中だけである」を指しています。
 つまり、普段は優しくない(暴君であった)が、その奥には優しさがあったことをなつかしむ文章であることがわかります。

 その姿が、最も端的に表れたのが後半のエピソードです。

  •  あれから三十一年。父はなくなり、妹も当時の父に近い年になった。だが、あの字のない葉書は、誰がどこにしまったのかそれともなくなったのか、私は一度も見ていない。

 前半のエピソードでは、父親は、十三歳の「私」に手紙を出してから三十年後の六十四歳で亡くなっていると書かれています。ですから前半のエピソードの父親は三十四歳くらいです。
 後半のエピソードでは、父親は小学校一年(七歳前後)であった妹を疎開させ、それから「三十一年。父はなくなり、妹も当時の父に近い年になった」とあります。ですから妹の現在の年齢は三十八歳くらいでしょう。

 ですから後半のエピソードは、前半のエピソードの四年以内に起こった出来事です。
 後半のエピソードの「私」は、十三歳以上十七歳以下で、「私」と妹の年齢差は十歳以下であることがわかります。

 父親が下の妹を抱いて声を上げて泣く姿を見た高校生くらいの「私」にとって、暴君のイメージとのギャップに衝撃を受けたことは想像に難くありません。

 「暴君」であったはずの「父が、大人の男が声を立てて泣くのを初めて見た」わけですから、
 「最も心に残るもの」ランキング最上位として「字のない葉書」のエピソードが挙げられるのは当然のことです。

 この父のギャップのある姿を「なつかしく思い出している」のがこの作品の主題なのです。

 これを授業の最後に気づかせるためには、

 まず前半のエピソードでは「暴君」「照れ性」「他人行儀」「非の打ち所のない父親」「日頃気恥ずかしくて演じられない父親」等のキーワードを構造化しておさえ、

 後半のエピソードでは妹の状況変化とともに、父親が「声を立てて泣く」に至る父親の気持ちを「この日は何も言わなかった」「はだしで表へ飛び出した」「やせた妹の方を抱き、声を上げて泣いた」等の叙述から父親の心情に触れさせます。

 そして、前半の父親の二面性と後半の「初めて見た」のキーワードを振り返り、
  • 「この作品の主題はどこに書いてあるだろう」
と問いかけて主題に迫らせる、という展開が考えられます。

 この主題は、テキスト最後の
  • だが、あの字のない葉書は、誰がどこにしまったのかそれともなくなったのか、私は一度も見ていない。
の解釈にもつながると思います。特に「だが」の解釈がポイントとなると思います。

 これに触れた生徒の意見が出てくるといいですね。


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