第4時 言い換えに注意して筆者の主張を理解しよう

 第1段落の問題提示文の次には、こう書かれています。
  • 実は、この絶海の孤島で起きた出来事は、私たちお住む地球の未来を考えるうえで、とても大きな問題を投げかけているのである
 そして第16段落には次のように書かれています。
  • イースター島のこのような運命は、私たちにも無縁なことではない
 「イースター島のこのような運命」とは「絶海の孤島で起きた出来事」です。
 これについては第2~15段落で問題提示の解答として説明されました。
 この説明は一応科学的な内容ですから、疑いの余地は少ないと思います。

 そして「私たちにも無縁なことではない」は「大きな問題を投げかけている」に対応しています。
 第16段落は、2~15段落までをまとめた上で筆者の主張をスタートさせるための段落です。

 四時間目の授業は、第16段落以降で述べられる筆者の主張を、言い換えに注目して理解する1時間となります。
  • 第17段落 森林は、文明を守る生命線
  • 第18段落 異常な人口爆発
  • 第19段落 食糧不足や資源の不足が恒常化
等の叙述をおさえつつ、第20段落の言い換えを理解していきます。
  • イースター島=地球の対比
  • 絶海の孤島=広大な宇宙という漆黒の海にぽっかりと浮かぶ青い生命の島
  • 森林が枯渇し、島の住民が飢餓に直面=その森林を破壊し尽くしたとき、その先に待っているのはイースター島と同じ飢餓地獄
 これは市販のワークブック等にもある内容ですから、特に問題なく授業が進むと思います。

 そして筆者は、以上の考察の結果として以下のことを主張しています。
  • とするならば、私たちは、今あるこの有限の資源をできるだけ効率よく、長期にわたって利用する方策を考えなければならない
と主張し、「それが、人類の生き延びる道なのである」とダメ押ししています。

 この論展開をおさえるために、授業の半分以上は費やすと思います。

 残りの時間は、次に行う
  • 「モアイは語る」をふまえ、自分の考えを書こう
の準備にあてます。

 この文章は、読者を説得することを目的とした文章と言えます。
 筆者の説得を100%受け入れ、納得してしまうというのはどうでしょうか。
 文章を批評的に読んで、筆者の主張について自分なりの判断を下す力を伸ばさなくては、読解力がついたとは言えないと思います。

 「モアイは語る―地球の未来」という説明的文章に論理的な穴はあるのでしょうか。

 第17段落の、日本列島で文明が繁栄したことと森林との関係、地球そのものが森に支えられているといった表現は、「~深く関わっている」「~という面もある」と、あいまいに表現していますから、明確に誤りであるとは言えません。

 第18~19段落の数値も、一般的に言われているものです。
800px-World-Population-1800-2100
世界人口 1800-2100年(国連 (2004) 及びアメリカ国勢調査局の評価・推計に基づく)

 しかし、筆者の主張には、以下の疑問が指摘できます。

飢餓地獄は起こらない

 第20段落には、次のように書かれています。
  • イースター島では~どこからも食料を運んでくることができなかった。地球も同じである。
 確かに、筆者の言う通り「二〇三〇年には(地球の人口は)八十億を軽く突破」することは、
 国連の推計等からいってもほぼ確実となっています。
 もし「二十一億ヘクタールの農耕地で生活できる地球の人口は、八十億がぎりぎり」であるならば、
 現在地球の人口75.3億(2017年)ですから、あと10年で食糧危機が現実となるわけです。

 しかし筆者が主張する通り「森林資源が枯渇」すれば、地球に「飢餓地獄」が訪れるというのは本当でしょうか。

 筆者は、この部分で「イースター島=地球」と言おうとしています。
 しかし、イースター島の「どこからも食料を運んでくることができなかった」の部分と対応する地球の状況は書かれていません。
  • 絶海の孤島のイースター島では、森林資源が枯渇し、島の住民が飢餓に直面したとき、どこからも食糧を運んでくることができなかった
  • 地球も同じである。広大な宇宙という漆黒の海にぽっかり浮かぶ青い生命の島、地球その森を破壊し尽くしたとき、その先に待っているのはイースター島と同じ飢餓地獄である。
 筆者は「広大な宇宙という漆黒の海にぽっかり浮かぶ青い生命の島、地球」と詩的な表現で「どこからも食糧を運んでくること」ができない状態を暗示しようとしています。
 確かに地球以外の惑星から食物を持ってくるというのは、不可能でしょう。

 しかし、地球外から食糧を持ち込む以外に飢餓地獄から逃れるの方法があることを、条件付きで明かしています。
  • 食料生産に関しての革命的な技術革新がないかぎり(19段落)
 言い換えると「技術革新が人類の生き延びるもう一つの道である」ことに、筆者は既に気づいているわけです。

 筆者が主張したい
  • イースター島で森林を破壊した結果、文明が滅んでしまった
という説は「エコサイド(ecocide)=環境虐殺」と呼ばれる説です。
 そしてこの説は、無謀な開発と環境破壊に警鐘をならすエピソードとして知られています。

 しかし、このイースター島の文明が滅んだ原因については、現在いくつかの反論が出ています。
 例えば「モアイは歩かせて移動させたので、ころを使ったのではない」というハワイ大学の研究もあり、動画も公開されています。「モアイを運ぶために木材を切り倒したのではない」というのです。

 また、森林資源が枯渇したのは、モアイを造るためではなく、無計画で行われた焼き畑農法のせいだと考える人もいます。

森林破壊だけでは文明は滅びない

 第20段落では「森林資源が枯渇し、島の住民が飢餓に直面した」とありますが、森林破壊によりイースター文明が滅んだとは書いてありません。

 イースター島文明が滅んだ理由については第15段落に次のように書いてあります。
  • こうして、イースター島は次第に食料危機に直面していくことになった。その過程で、イースター島の部族間の抗争も頻発した。そのときに倒され破壊されたモアイ像も多くあったと考えられている。このような経過をたどり、イースター島の文明は崩壊してしまった。
 「このような経過」とはどのような経過なのでしょう。

 第15段落に限れば「(イースター島が次第に食糧危機に直面していく)過程」を指すと思われます。具体的には第15段落以前の論の展開を指していると思われます。

 イースター島の文明が崩壊した直接の原因は「部族間の抗争」です。
 人口爆発と森林破壊による食糧危機が、肥沃な土地と漁場をめぐっての部族抗争を生んだと言われています。
 モアイは部族のシンボルなので、部族間の抗争として「モアイ倒し」が盛んに行われていたようです。

 このことを筆者は知らなかったのでしょうか。
 ですから、現在の研究では次のように書くのが正しいと考えられます。
  • こうして、イースター島は次第に食料危機に直面していくことになった。その過程で、イースター島の部族間の抗争頻発した。そのときに倒され破壊されたモアイ像多くあったと考えられている。その結果、イースター島の文明は崩壊してしまった。
 ほんの少し助詞などを変えるだけで、ずいぶん内容が変わってきますね。

 確かに、森林「破壊(焼き畑農法が原因だとすると「伐採」とは言えません)」により土地が痩せ、船なども造ることができなくなったことが、食糧危機が訪れたもともとの原因かもしれません。
 しかし直接の原因は部族間の抗争だと考えられています。

 イースター島では、モアイが作られなくなってから数百年後にヨーロッパ人が到達したときは生活水準は石器時代並となっていたそうです。
 しかしまだ「文明」としては死んでしまったとはいませんでした。

 最終的にイースター島文明を崩壊させたのは、
 ヨーロッパ人による奴隷狩りと、彼らにもたらされたインフルエンザや天然痘、ペストなど疫病ためだとされています。

 イースター島の人々や彼らが築いた文明は、実際はどうだったのか、どうなったのかは、言い伝えでしか残っておらず、実はよくわかっていないというのが現状です。

 文章を細かく分析してみると、
 筆者は単純に「森林破壊→食糧危機→文明の崩壊」と主張してはいないことがわかります。
 しかし巧妙に読者がそのように理解(誤解)するような論の展開をしているのです。

 更に20段落では、次のようにまとめています。
  • 今あるこの有限な資源をできるだけ効率よく、長期にわたって利用する方策を考えなければならない。それが、人類の生き延びる道なのである。
 ここで言う「この有効な資源」とは何でしょう。
 筆者はどちらを言いたいのでしょう。
  • 今ある森林資源を、できるだけ効率よく、長期にわたって利用する方策を考えよう
  • 今あるすべての資源を、できるだけ効率よく、長期にわたって利用する方策を考えよう
 読み手は、森林資源ではなく、「有効な資源」すべてを言っているように受け取ってしまう可能性が高いと思います。
 

 確かに石油やレアアースなどは、直接的に自然由来の資源をめぐる部族間の抗争(現代では国家間の抗争、と言い換えてもよいでしょう)のもとになっています。
 これらの資源を「できるだけ効率よく、長期にわたって利用する方策」は、
 筆者の主張通り、現在世界中で努力しているような気がします。
 しかしそれ以上に文明の崩壊につながる可能性が高いのは、石油やレアアースを原因にした部族(国家)間の抗争の方ですね。

 自然由来の資源ばかりでなく、人的資源というのもあります。
 人間を「効率よく長期にわたって利用」という感覚はどうなんでしょう。

 第16段落以降の読解を進めてから、これらの反論を生徒に考えさせるというのは1時間では不可能です。

 単元の指導事項
  • ウ 文章の構成や展開、表現の仕方について、根拠を明確にして自分の考えをまとめること。
  • エ 文章に表れているものの見方や考え方について、知識や体験と関連付けて自分の考えをもつこと。
を5時間という時間枠のなかで全うするには、どうしても
  • 「説得する文章」に対して「自分の考えをまとめる」「自分の考えを持つ」
という内容をやりたくなります。
 具体的には、やはり作文を書かせたいと思います。

 そこで、筆者の論に対する反論を知識として生徒に与え、
 それらもふまえて自分の考えを次の1時間で書くという展開が自然かと思います。

 第4時は、前半で筆者の主張を理解し、
 後半で、筆者の主張の弱点とその反論を説明し、
 次の時間で、自分なりの意見を文章に書くことを予告して終わります。

第5時 この文章をふまえ、あなたの考えを書きなさい。

 高校入試等でよく出題されるものに、「この文章をふまえ、あなたの考えを書きなさい」というものがあります。
 そこで読ませるのは、論説文等の説明的文章がほとんどです。

 初見の説明的文章を読んで、その内容を理解した上で、自分の考えを書かせることによって、

 読解力と同時に表現力も見ようとするものです。
 当然、論旨を的確に把握していなくてはいけません。
 また、誤字・脱字、文のねじれ等も減点の対象となります。

 生徒は「え~」というかもしれませんが、その時は次のように指導します。
  • 来年の受験に向けての練習である 従って入試同様に採点する
  • 内容の理解は既に終わっている 従って入試より難易度は下がる
  • この課題を提出することは既に予告してある 予習をするかしないかは自由である
 次の条件を板書します
  • 800字以内(八割=640字以上書いてなければ評価対象外となる)
  • 原稿用紙の使い方に準ずる 1行目に組・氏名を書く 題名は書かない
  • 終了の合図(チャイム)と同時に提出する(時間外の提出は認めない)
  • 解答は A・B・Cの三段階評価とし、それ以外にD評価(採点対象外)がある
 あとは、原稿用紙を配り、書かせ、回収します。

採点基準例 

 夏休みの前後に意見文等を書かせたことと思います。
 その時の指導内容を採点基準とするのが良いと思います。

 私の場合は、「高校入試を想定した採点を行う」ことを生徒に伝え、次の評価基準を板書します。
  • 条件を満たしていないものは評価対象外としD評価
  • 誤字脱字等を含め原稿用紙の使い方の誤りが著しいもの、テキストの要旨を正しく捉えていないもの、テキストの読み取りに誤りがあるもの、論の展開に誤りがあるもの等はC評価
  • 結論が最初に書いてあるもの、自分の考えに対する反例をあげる(逆接の接続詞を効果的に使う)ことで説得力を持たせているもの等はA評価
  • それ以外はB評価
  • 評価は以上の基準に基づき総合的に判断される 意見の内容は、テキストの主張をふまえている限り賛否その他は問わない
 この授業は、国語科の授業をするのであって、道徳や総合的な学習の時間、特別活動の授業をしているのではありません。
 私たちが「モアイは語る―地球の未来」で教えたいことは、
 「説得する文章」に対し、
 その内容を「正確に」読み取り、批判的に分析し、自分なりの考えをまとめることです。

 がんばりましょう。