言うまでもなく国語科は内容教科ではなく形式教科です。ですからこの教材の言っていることを理解させる指導をするのはどうかと思います。あくまでも次の指導事項を指導していかなくてはいけません。
  • ア 抽象的な概念を表す語句や心情を表す語句などに注意して読むこと。
  • イ 文章全体と部分との関係、例示や描写の効果、登場人物の言動の意味などを考え、内容の理解に役立てること。
  • ウ 文章の構成や展開、表現の仕方について、根拠を明確にして自分の考えをまとめること。
  • エ 文章に表れているものの見方や考え方について、知識や体験と関連付けて自分の考えをもつこと。
これらを4時間に納めるのは至難の業です。

まず、生徒にとってわかりづらい「抽象的な概念を示す語句」をチェックしていきます。

1~4段落

それまでの絵画とは違う、全く新しいもの(第3段落)

二年生のこの時期ならば、「ルネサンス」という言葉は社会科の既習事項ですが、言葉だけ知っていても中身はまったく覚えていない、ということがあります。
ルネサンスな何かよくわからない生徒にとって、それ以前の中世キリスト教文化の中で描かれた『最後の晩餐』はどのような絵だったのか、知っているはずがありません。
当時の人々が見慣れた『最後の晩餐』とは、下の絵のように、聖書の文言を絵にして説明したものだったのです。
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「それまでの絵画とは違う、全く新しいもの」は、次の段落で「科学が生み出した新しい芸術」に言い換えられています。そして読者に、本物の『最後の晩餐』を直接見たら「どう思うだろうか」と問いかけ、自分は「なぜか『かっこいい』と思った」と述べています。

生徒はダヴィンチの『最後の晩餐』を見て、筆者のように「かっこいい」と「衝撃」を受けるでしょうか。まず無理でしょう。
生徒にとってダヴィンチの『最後の晩餐』が初めてであり、『最後の晩餐』と言えばダヴィンチのものしかないのですから……。

筆者は、それまで描かれてきた中世キリスト教文化の『最後の晩餐』の絵をたくさん知っていて、その上で当時の人々と同じ気持ちになって「かっこいい」と「衝撃」を受けたと書いたのだと思います。

そんな筆者の考えに、生徒たちは共感できるはずがありません。

評論文を正確に読解するためには、評論しようとする対象に対する知識がある程度ないといけない、ということですね。
例えばAKBのジャンケン大会についての評論しようとしても、AKBの知識もなく興味・関心もない人にとっては、何を言っているのかさっぱりわからなくなるのと同じです。
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ともあれ、この「『かっこいい』と思った」理由を「じっくりと分析する」ことによって解説しようとしている評論文だということがわかります。

第5~8段落

人物の構図から、そんなことが感じられる(第8段落)

『最後の晩餐』は文化祭の時に体育館のステージ上に描かれる絵よりも大きな壁画です。
この大きな絵の前に立つと「そんなことが感じられる」(第8段落)と言っています。

「こんなこと」とは直前の「何かが、起こっている」ことです。
何が起こっているかというと、8段落で述べている内容でしょう。

では「この絵の構図から」なぜわかるのでしょう。

この段落のまとまりは「この絵の人物の構図」という言葉に集約することができます。
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上の絵は『けいおん!』(©かきふらい/京都アニメーション)のイラストです。

右から二番目の女の子(平沢唯)が最も大きく正面を向いて描かれています。見る人にとっては、最も近くにいる彼女に見つめられているのです。
同時に彼女は、両端の二人の視線を集めています。これらのことから私たちは、この子が主人公であると感じ取ります。
また、この子と隣の黒髪の子は、ほうきをギターのようにして遊んでおり、よく見てみると他の二人も打楽器を叩いたりキーボードを弾いたりするまねをしていることから、このイラスト「学校」「遊び」「音楽」に関係する話だと、『けいおん!』を知らなくてもわかりますね。
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次の絵は『けいおん!!』のイラストです。

前の絵の唯ちゃんがV字型に並んだメンバーの中央に入っており、主人公であることがよりはっきりします。
そしてメンバーの持ち物は軽音楽に用いる楽器です。
V字型の配置は、何か目的に向かって進もうとしている5人であることを暗示しています。
このことから、この話は軽音楽関係で何かをやろうとしているんだな、とわかります。
(実際には、軽音楽でコンクールに優勝しようとかいうのではなく、ごくユルい話なんですけどね。)

構図とは、表現の要素を組み合わせて効果を出す手段、または画面の中の要素の配置のことを言います。
『けいおん』のイラストでは、登場人物やその動作・持ち物などの要素の組み合わせや配置を工夫することを通して、『けいおん』という物語を表現しているのです。

筆者の「この絵の人物の構図」とは、この絵に登場している13人の一人一人の表情や仕草、そして彼らの全員の配置を通して、キリスト教の「最後の晩餐」というドラマを表現しているのだ、ということです。

構図の目的は、見る人の視線がイメージ全体に行き渡るよう誘導し、絵を興味深いものにするということです。
絵の伝えたいことと見る人の目の動きが一致しているように各要素の組み合わせや配置を工夫することが大切なのです。
そして「何が言いたいか」がはっきり見る人に伝わることが最も重要なことです。

この「構図」については、第3段落の「解剖学」「遠近法」「明暗法」に含まれていません。
それまでの聖書の解説に過ぎない宗教画から、「構図」によって聖書に物語としての命を与え、教義を超えた解釈を盛り込んでドラマ化したという功績はこの「構図」によるものだ、と第19段落以降で筆者は述べています。

「解剖学」「遠近法」「明暗法」と言った「絵画の科学」は、絵の伝えたいことを観客にはっきりと伝えるための手段に過ぎないのです。
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実際に授業で使用したプリントをBOOTHにておわけいたします。
よろしければご利用ください。


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