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更に「走れメロス」の登場人物も、つっこみ所満載です。

1 アブナイあんちゃん メロス

もし今の日本で、世情に疎く世論の動向などにまったく関心がない若者が、一人の老人の「国の指導者は人殺しだ」「自分の周囲の人間を次々と粛清している」という言葉を聞いただけで、暗殺を思いつき、その足でホームセンターで刃物を買い求め、のこのこ官邸に乗り込んだ人間がいたとしたらどう思いますか。

メロスがやったことは、これと同じです。メロスは一般の常識をわきまえない危険人物です。

更に、妹の結婚式を「間近だ」と勝手に決めてしまったり、承諾も得ずにセリヌンティウスを人質として差し出したり、極めて自己中心的な性格な行動を平気でとっています。

ところが困ったことに、自分を「偉い男」「弟になったことを誇ってくれ」と言い、自分に「正義」があると言ってはばかりません。
自意識過剰で自尊心が高く、ほとんど自己陶酔の世界に陥っています。

ほとんど疾病レベルの超アブナイあんちゃんだと言えます。

緋のマントを捧げた少女には「考え直せ」と言ってあげたいと思います。

2 一番得をしたのはディオニス王
Dionysius_I_of_Syracuse
ディオニスのモデル ディオニシウス王
王は、妹婿によるクーデター計画により人間不信に陥り周囲の者を次々と粛清し、そのために世論は離れ支持率最低の状況です。
自身もストレス過多で不健康ですから、愚かではない王は、早晩自分の王朝が滅亡するかもしれないことを悟っていたかもしれません。
悪循環に陥っていますが、それをストップすることができません。

そんな王がメロスにしたことは、人質をとることで自分を暗殺しようとしたメロスを放免し、もし帰ってきたら人質を解放し処刑する、という裁定を下しただけです。

今の刑法では殺人未遂及び内乱罪ですから死刑にまではならないと思いますが、当時の常識として、王は即座にメロスを処刑しても当然だったと思います。
(ついでに連座制が適応されるなら、妹や妹婿も死刑だったでしょう。メロスは結婚式をあげさせる前に、即、妹を離縁すべきでした。)

ディオニス王は、なぜメロスをすぐに処刑しなかったのでしょう。

そうしなかったのは、自分の主張が正当であることの宣伝材料とし、世論に訴えるためだったのかも知れません。
だからこそ、事件の経緯を公表し、自分の主張が正しいと宣伝するために刑場に民衆を集めたのでしょう。

ですからこの目論見に失敗した王は、帰ってきたメロスに
「なるほどお前が約束どおり帰ってきた。ならば私も約束を守ろう。お前を縛り首にする。」
と言って、さらっと始末してしまうことができました。

ところが王はメロスを許してしまいます。

しかし、これにより結果的に民衆から「王様万歳」と叫ばれます。
世論は一気に好意的なものとなり、支持率も急上昇したわけです。

王が支払ったリスクは「わしの心に勝ったのだ」と敗北宣言をし罪を赦したくらいで、他には何も失っていません。ローリスク・ハイリターンの極みです。

ディオニス王にとって、世論の圧倒的支持を得たということは、これ以上ないくらいの幸運な結末です。
どこかの国の首相もきっとうらやましく思っていることでしょう。

3 セリヌンティウスは聖人君子

メロスの友人セリヌンティウスは、最後の場面で三日間で一度だけメロスを疑ったので自分を殴れ、と言います。
それはメロスが直前に「途中で一度、悪い夢を見た」から殴れ、と言ったからです。

そもそもメロスが「悪い夢」を見たのは一度だけでしょうか。

メロスが見た「悪い夢」は、疲労困憊してまどろむ直前だけではありません。
メロスは結婚式で「あの約束をさえ忘れ」、「このままここにいたい」と願います。
出発してからも「幾度か、立ち止まりそう」になります。

「未練の情」てんこ盛りのメロスです。

ところがメロスは、しれっと川を泳ぎ切って倒れた時のことしか言っていません。
川を渡りきった時は、疲れ切って心神喪失状態であったために、思わず本音が顔を出してしまったようにも読めます。

セリヌンティウスが、メロスのことを本当に理解している親友なら「きっとメロスは戻るかどうか迷うだろうな」と考えるのではないでしょうか。

きっとメロスは迷うだろう、
迷っても結局は来ようとする気持ちはあったに違いない、
でも何か理屈をつけて戻らなかったとしても、それはそれでメロスらしいな、
と考えたはずです。

だいたい相談もなく自分を人質に差し出してしまうご都合主義のメロスです。
セリヌンティウスは、おそらく「メロスが戻ってこなくて自分が死刑になってもしょうがないや」と諦めていたのかも知れませんね。

ところがメロスは処刑場に戻り、しゃぁしゃぁと「一度」だけ「悪い夢を見た」と言ってのけます。

「ウソだろ」と思いながらも、自分も調子を合わせて「一度だけ」と言い、黙って殴られるセリヌンティウスです。

寡黙で、友のために死を覚悟してためらわないセリヌンティウスは、聖人君子か仏様のような人間だと思います。

こんなすばらしい友人を、どうやってあのメロスがキープできたのか、物語最大の謎だと思います。

4 謎の人フィロストラトス

セリヌンティウスの弟子を名乗るフィロストラトスは、王城間近に迫るメロスに近づき「走るのはやめてください」と言います。

これはとても不思議な行動です。

フィロストラトスはセリヌンティウスが刑場に引き出されて以降の一部始終を見ていたはずです。

セリヌンティウスの愛弟子ならば、
師匠が処刑される瞬間までそこに留まるのが人情なのではないかと思います。

では、なぜフィロストラトスは刑場の外に出たのでしょう。

彼はメロスと出会い、師匠が処刑から免れる唯一の手段=メロスが刑場に行くことをやめろと言っています。
彼は、師匠が助からないように、メロスに頼んでいるのです。

更に「ついてこい」とメロスに言われた後、彼はどこへ行ってしまったのでしょう。
もしついてきていたのなら、疲労困憊のあるメロスより体力があるはずですから、人混みをかき分ける手助けくらいはできたはずです。

『走れメロス』の元ネタ、シラーの詩では、セリヌンティウスはメロス家の執事もしくは家令に設定されています。
それならばフィロストラトスが「刑場に行くな」とメロスに言っても納得できますが……

もし『走れメロス』の後日譚を書くのだったら、彼をメインに据えたいところです。

次回から、実際にどのように授業を展開するか説明します。


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