この物語は主人公の目線で書かれている一人称小説です。

主人公から見た物語ですから、
主人公に都合がよいように書かれています。

まず最初の教室の場面で、主人公は教室窓側(廊下と反対側)後方の座席に座っています。
詳しくはこちらこちらを参照。

ここに戸部君がやってきて、
いろいろあった後、A子さんは夏実と仲直りしようと、廊下で夏実を待ち受けます。

夏実の姿を見つけたA子さんの緊張は最高潮に達します。
  • 私が声をかけたのと、隣のクラスの子が夏実に話しかけたのが同時だった。
とあります。
夏実は、一人で歩いてきたのでしょうか。
  • 夏実は一瞬とまどったような顔でこちらを見た後、隣の子に何か答えながら私からすっと顔を背けた。
とありますから、夏実は「隣の子」と何か話しながら、二人で並んで歩いてきたのではないでしょうか。
ところがA子さんはテンパっていたので、夏実に話しかけるまで「隣の子」には気づかなかったのだと思います。

一方「隣の子」と話ながら歩いてきた夏実は、会話の途中で突然A子さんに話しかけられます。
そのため「え?」と「一瞬とまどったような顔」をして、同級生との会話を続けながら歩いていってしまいます。

A子さんは「顔を背けた」といっていますが、夏実にとってはA子さんの方を一瞬向いて、会話の続きをしただけだったのではないでしょうか。

A子さんは、夏実にとって街角のアンケートやティッシュ配りレベルの対象になってしまっていたのかも知れませんが、A子さんは期待が大きかった分、茫然自失の状態になります。

この廊下での出来事を、戸部君は見ていたのでしょうか。

教室の出入り口の幅から考えると、A子さんの座席の位置にいたはずの戸部君からは、廊下で何が起こったのかほとんどわかりません。
ましてや、廊下の掲示物を見るフリををした主人公のA子さんを戸部君は見失っているはずです。

次に戸部君がA子さんを目にするのは、A子さんと夏実がすれ違った後です。

この時、A子さんは
  • ひどい顔をしている。唇が震えているし、目のふちが熱い。
といっていますが、これは「泣きそうな顔」か「泣き顔」でしょう。

戸部君の立場からいうと、
  • ちょっと机にぶつかって、塾の宿題の質問をしただけなのに、プンプン怒って廊下に行ったかと思うと、次に泣いていた。A子、どうしたんだろう。
という感覚だったと思います。

放課後A子さんは、
  • 繊細さのかけらもない戸部君だから、みんなの前で何を言いだすか知れたものじゃない。どこまでわかっているのか探っておきたかった。
と理由付けして、戸部君に会いにいきます。
  • だいたいなんであんな場面をのんびりと眺めていたのだろう。
の「あんな場面」とは、自分が泣いていた(泣きそうな顔をしていた)場面のことか、夏実に無視された場面のことかがはっきりしません。

しかしいずれにせよ、戸部君に会いに来た理由は「魂がぬるぬると溶け出し」た状態の考えで、本心ではないのです。

一方戸部君は、部活中にふと水飲み場の方を見ると、A子さんがいることに気がつきます。

そこで声をかけようと急いで水飲み場にやってきて、顔を洗っていたA子さんに「あたかも」のだじゃれを言います。

A子さんを笑わせて元気づけようとしたのでしょう。
「どうしたの?給食前に泣いていたけど、何があったの?」とは聞かない、紳士的な戸部君です。

これが「一人称小説」ではない、夏実さんや戸部君の物語だと思います。

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